エミリー:これなんて日本語でいうかわかる? パンを焼く前にこうするの。ホームステイ先のママがよくやっているの。パンを焼くのが上手なのよ。エミリーも手伝ってくれる「・・るの」といってたんだけどはっきり聞き取れなくて。
エミリーはジェスチャーでヒロシに説明します。
ヒロシ:パン生地を作る時だね。 それはね、「捏ねる」って言うね。 パン生地だけじゃくて、うどんとか、そばとかに使うかな。そうそう、食べ物じゃなくて、粘土とか焼き物、これを作る時も捏ねるは使うね。
エミリー:ありがとう、へぇ、「捏ねる」ね。丸めると違うのね。
ヒロシ:そうだね、丸くするのが目的じゃなくて、その作業を繰り返していることによって味がよくなるというか、硬さを調節するというのかな。僕も詳しいことはわからないけどね。
エミリー:そうなんだ。でもアメリカでもママがパンやピザを作る時に同じことしていたから、
英語でなんていうのかは簡単よ。knead というのよ。
Knead the dough for 10 minutes 生地を10分間こねてくださいって感じかな。doughは生地ってことね。
ヒロシ:そうだよね、パンなんかもともと外国のものだもんね。
そばとかうどんにも使えるのかな?
エミリー:英語では、パン生地だけでなく、他の種類の生地を手で練ったり、こねたりする動作を表す際にも「knead」を使うから大丈夫よ。たとえば、うどんやそばの生地をこねるときも「knead the dough」という表現でOKね。
例:
"You need to knead the soba dough thoroughly to get the right texture."
(そばの生地をよくこねて、適切な食感にしなければなりません。)
ヒロシ:エミリー、あとね日本語の難しいところで、「捏ねる」には別の意味があるんだ。
エミリー:日本語の特徴ね。どんな意味?
ヒロシ:うん、たとえば「理屈をこねる」っていう表現があるんだ。これはね、言い訳や無理な理由や意味のないことで時間を費やすような状況でつかわれたりするんだよ。「理屈なんかこねてないで、早くやれ」みたいな。結果を出すことや素早い対応が求められる場面で、「理屈をこねる」ことが無駄な抵抗や遅延を意味するため、非常にネガティブな印象を与える言い回しといえるね。
エミリー:なるほど、「理屈をこねる」にはネガティブな意味合いがあるんだね。英語だと「make excuses」や「rationalize」が似ているかもね。どちらも、自分の行動を正当化したり、やりたくないことを避けるために無理に理由を作るって意味だから。
例えば、「He's always making excuses to avoid doing his homework.」(彼はいつも宿題をやらないための言い訳をしている)っていう感じかな。まさに「理屈をこねてる」って状況だわ。
また、「She tries to rationalize her decision, but deep down she knows it's wrong.」(彼女は自分の決断を正当化しようとしているけど、内心ではそれが間違っているとわかっている)みたいに、無理に理屈をつけて自分を納得させようとすることもあるわよね。
ヒロシ:まさにそれが「理屈をこねる」だよ。日本語の「こねる」って、同じことを何度も繰り返して進展がない感じを持たせるんだ。それが物理的な「こねる」動作ともつながっているんだよね。
それと、親と買い物に行って、欲しいものを見つけたけど親が買ってくれない。それを買って、買ってと親に要求するような状況を「駄々をこねる」なんていうように使うこともあるんだ。
エミリー:アメリカでもよく見かける風景ね。それだったら、The child threw a tantrum at the store, shouting, "I want that toy!"
(その子どもは店で「おもちゃが欲しい!」と叫びながら駄々をこねた。)「throw a tantrum」 は、特に子どもが感情を爆発させてわがままを言うときに使われる英語表現で、日本語の「駄々をこねる」に非常に近いと思うわ。
パンや粘土をこねるのと、言い訳や理屈や要求を「こねる」っていうのが同じ言葉で表現されるイメージがわかったわ。そういう意味の広がりが、日本語ならではだわ。
ヒロシ:うん、日本語ではこうした言葉の使い方が多いよ。同じ動作や行為から、抽象的な意味に展開していくんだ。英語でも同じような表現があるけど、やっぱり文化的な違いも大きいよね。
エミリー:そうね。英語では単に言い訳や理屈をつけるっていう感じだけど、日本語では繰り返すことにフォーカスがあるから、少しニュアンスが違うんだなって感じたわ。
解説
エミリーは、パンや粘土を「こねる」という物理的な動作から、同じ言葉が抽象的な意味を持つ「理屈をこねる」につながることに驚きを感じました。さらに、「こねる」という動作が無駄に繰り返されるイメージが、日本語ではネガティブな意味として使われることも学びました。
一方、ヒロシは、英語にも「make excuses」や「rationalize」のように言い訳をする表現があるものの、日本語ほど「こねる」の動作と結びついていないことを知り、日本語の持つ独特な表現の豊かさを再認識しました。
この会話を通じて、エミリーは単に新しい単語を覚えただけでなく、日本語の深い意味の広がりに触れ、日本文化の中に根付く言葉の面白さを理解するきっかけとなったのです。また、ヒロシも自分の母国語を改めて見つめ直し、日本語の豊かな表現力に気づく機会となりました。これからも二人は、互いの言語を学びながら、その背後にある文化の違いを探求し続けることでしょう。