
夕暮れの神社前。ヒロシは、浴衣姿のエミリーと合流した。
彼女は、ホストマザーから借りたという浴衣を身にまとい、金魚すくいやたこ焼きに目を輝かせている。
ヒロシ: エミリー似合うよ、浴衣!
エミリー: ありがとう!! 浴衣を着ると、日本人に近くなった気がするわ!!
わあ、すごい!屋台がいっぱい。音楽も鳴ってるし、浴衣の人がいっぱいいる~!
ヒロシ: これぞ“日本の夏”って感じだね。でもさ、こういうのって英語で “Japanese festival” って言うのかな…。
エミリー: うーん…、前からちょっと思ってたんだけど――
ヒロシ: どうしたの?
エミリー: “festival” って言っても間違いじゃないけど、ちょっと一括りにするには広すぎる気がするなあ。
ヒロシ: どういうこと?
エミリー: 日本って“祭り”って名前の行事が多すぎない? 地鎮祭とか、新嘗祭とか、ひな祭り、学園祭もあるし、今日みたいな夏祭りもある。
ヒロシ: たしかに。意味も規模も全然違うのに、ぜんぶ“祭り”って呼んでるな。
エミリー: アメリカだと、宗教儀式は ritual、地域のイベントは fair や celebration、食フェスみたいなのは food festival って、けっこう使い分けるの。
ヒロシ: なるほど…“祭り”って言われたら、なんでも “festival” って思っちゃうね。
エミリー: だから行われてる内容を見て、文脈で英語を変えるのが大事だと思うわ。
ヒロシ: へえ…。じゃあ今日のこれは?
エミリー: これは “neighborhood summer festival” とか、あるいは “Japanese summer matsuri” って説明つきで言うのが自然かな。
解説:なぜ「祭り=festival」で片付けられないのか?
日本語の「祭り」は非常に広い意味を持っています。
今日のような夏の地域行事もあれば、神道の儀式(地鎮祭、新嘗祭)や、学校の学園祭、さらには「ラーメン祭り」のような商業イベントもすべて「祭り」と呼ばれます。
しかし英語では、それぞれに適した表現を使い分けます。
日本語 | 英語での言い方 | 補足説明 |
---|---|---|
地鎮祭 | Shinto ground-breaking ceremony | 土地の浄化と工事の安全祈願 |
新嘗祭 | Shinto harvest ceremony | 神に新米を捧げる |
夏祭り | neighborhood summer festival / Japanese summer matsuri | 食べ物の屋台・盆踊り・花火などがある地域の行事 |
学園祭 | school festival / campus fair | 学校の文化イベント |
○○フェス | ramen festival / anime convention など | 商業イベント的な性格が強い |
つまり「festival」だけで一括りにしてしまうと、それぞれの行事の目的や雰囲気が正しく伝わらないおそれがあります。
言葉に宿る文化のちがい
日本語の「祭り」という言葉には、実は深い文化的背景があります。
その語源は「祭る」や「祀る」――つまり、神を敬い、供物を捧げ、感謝や願いを表す行為です。
「祭り」はもともと宗教的なもの
「祭り」という言葉は、古くは**神道や民間信仰の“祭祀(さいし)”**を指しました。
五穀豊穣を祈ったり、災厄を鎮めたりするために、神様に祈りを捧げるのが原点です。
たとえば「地鎮祭」は、家や建物を建てる前に土地の神様に敬意を表す儀式。
「新嘗祭」は、収穫への感謝を神に捧げる儀式です。
このように、「祭り」は神との対話のかたちだったのです。
そこから“夏祭り”のような行事が派生した
やがて、こうした祭祀に人が集まり、地域の共同体としてのにぎわいが生まれました。
- 神社の境内に屋台が並ぶ
- 神輿を担ぐ
- 盆踊りで祖先を供養し、地域の人々と踊る
→ つまり、祭りの「楽しさ」は副次的に生まれた文化だったのです。
現代の「夏祭り」は、その宗教的ルーツを意識することは少なくなっていますが、
その背景には「神をまつる」という本意がしっかりと存在している――このことは、外国人に説明するときに重要なポイントとなります。
英語の "festival" とのズレ
英語の festival は、確かに宗教的な意味を持つこともあります(例:Easter Festival など)。
しかし、多くの場合は「音楽フェス」「映画祭」などのように、商業的・娯楽的なイベントのイメージが強い言葉です。
また、英語では宗教儀式や祈祷のようなものは ritual や ceremony として分けて扱います。
- Shinto ritual(神道の儀式)
- harvest ceremony(収穫祭)
- school fair(学園祭)
- summer celebration(夏の地域イベント)
つまり、「祭り=festival」と単純に置き換えると、日本語が持つ“精神的な厚み”が失われてしまうのです。。
祭りを英語で説明
In Japan, the word matsuri can refer to anything from sacred rituals like Jichinsai to fun local events like summer festivals and even school events. In English, we usually distinguish between rituals, fairs, and festivals. That’s why translating all kinds of “matsuri” as “festival” may oversimplify their cultural meaning.
日本語訳: 日本語の「祭り」は、地鎮祭のような宗教儀式から、夏祭り、学園祭のような楽しいイベントまで幅広く使われます。一方、英語では ritual、fair、festival などに分かれており、すべてを「festival」と訳すのは、その文化的背景を単純化しすぎてしまう可能性があります。
この言葉は JLPT N2レベル?
「祭り」という語自体はN4レベル程度で出てきますが、今回のように文化的な背景の違いや文脈に応じた英語表現の切り分けを考えるのは、N2レベル以上の語彙的・文化的理解が必要になります。