
土曜日の午後、大学のグラウンド脇にあるベンチで、ヒロシとエミリーが缶コーヒーを飲みながら雑談している。ヒロシは昨日のサークル飲み会で、OBの先輩から受けたアドバイスについて話し始めた。
ヒロシ: 昨日の飲み会でさ、OBの田中先輩にちょっと真面目な話されたんだよ。
エミリー: へぇ、どんな話?
ヒロシ: 「自分の立場でできることをまずやれ」って言われてさ。なんか…その一言が「刺さった」んだよね。
エミリー: 刺さった?それって、針とかトゲが体に刺さるときの「刺さる」?
ヒロシ: あー、同じ字なんだけどね、ここでは比喩的な意味なんだ。言葉が心にグサッと入ってきて、強く印象に残るって感じ。
エミリー: なるほど…痛いっていうよりも、心に響いたってこと?
ヒロシ: そうそう。感動したり、考えさせられたり、なんか「やられた…」って気分になるときに使うんだよね。
エミリー: じゃあ、英語の “It struck me.” とか “It stuck with me.” みたいな?
ヒロシ: おお、そういう感じなんだ。エミリー、よくわかるね。
エミリー: なんか、この前も歌の歌詞が「刺さった」って言ってたよね?
ヒロシ: そうそう。歌詞とかセリフ、誰かの一言とか、日常でよく使うよ。
エミリー: 比喩だけど、感覚的にすごく伝わる言葉なんだね。
ヒロシ: うん、刺さるって、軽く聞こえるけど、けっこう深い意味あると思う。
解説:「刺さる」という言葉について
「刺さる」は本来、物理的に「針や棘など鋭いものが体に突き立つこと」を意味しますが、古くから比喩的に「感情に深く訴えかける」「心に残る」という意味でも用いられてきました。和歌や俳諧、近代文学などでも、「胸に刺さる」「心に刺さる」といった表現が見られます。
現代ではその比喩的用法がより日常的に、かつカジュアルに使われるようになり、SNSや若者言葉の中で「共感」「感動」「心に響いた」といった意味で頻繁に用いられています。
語構造の分析
「刺」=とがったものが突き入る、「さす」という動作。「刺さる」はその自発的・受け身の形で、「突き立つ状態になる」ことを指します。この動きが比喩的に転じて、「心に突き刺さる」=強い感情的インパクトを受ける、という表現になりました。
英語訳との構造比較
まず、物理的な意味での「刺さる」の英語表現は以下の通りです:
- A splinter got stuck in my finger.(トゲが指に刺さった)
- An arrow pierced his chest.(矢が胸に刺さった)
これに対し、比喩的な「刺さる」は英語で一語に訳すのが難しく、文脈に応じて使い分ける必要があります。
- It hit me.(本質を突かれた・衝撃を受けた)
- It really struck me.(深く心に響いた)
- It stuck with me.(後まで印象に残った)
- It touched me deeply.(感動した)
これらは「刺さる」の一部の側面をそれぞれカバーしています。
近いが異なる英語表現との比較
- "It hurt me":感情的なダメージを受けたという意味では近いが、共感や学びのニュアンスは含まれにくい。
- "I was shocked":驚きが中心で、共感や感動という意味ではずれている。
「刺さる」は「ただのショック」でも「ただの痛み」でもなく、「心に作用して残るもの」を指します。
文化的・社会的意味の翻訳
日本語の「刺さる」は、物理的な痛みを比喩的に使い、「感情に響く」「気づきを与える」「共感する」といった心理的効果を伝えます。これは、感情の動きに対して繊細な日本語表現の一つであり、SNSや若者言葉としても頻繁に使われています。
「刺さる」を英語で説明する
"Sasaru" refers to a moment when something—a phrase, lyric, or comment—hits you emotionally and leaves a strong, lasting impression. It can be uplifting, eye-opening, or even slightly painful, but always meaningful.
「刺さる」とは、ある言葉や表現、経験が心に強く響き、深い印象や感情的な余韻を残すことを指します。ポジティブにもネガティブにも使われますが、共通するのは「印象に残るほどの感情の動きがある」という点です。
JLPTの目安レベル
N2〜N1レベル
※日本語能力試験(JLPT)では、出題語彙の公式リストは公開されていません。このレベル表示は、実際の試験問題や教材に基づいた目安として記載しています。