
ヒロシは、ウイルス感染に関するテーマの映画を観ていて気付いた。ウイルスに感染しているか、していないのかの検査の結果を表すのに、ポジティブ、ネガティブという表現を使って表すということ。そして、かかっているものをポジティブ、かかっていない者をネガティブということに違和感を抱いた。「ポジティブって、前向きな意味じゃないの?」と。どうにも引っかかった彼は、早速、エミリーに声をかけた。
ヒロシ: ねえエミリー、ちょっと聞いていい?
エミリー: うん、どうしたの?
ヒロシ: 今日、映画観てたんだけどさ、ウイルスに感染してない人を「ネガティヴ」って言ってて、びっくりしたんだよね。
エミリー: ああ、それは検査の結果の話だね。「ネガティヴは」は「陰性」って日本語なら言うかな。
ヒロシ: でも、日本語で「ポジティブ」って、前向きとか良い意味じゃん?だから「感染してるのがポジティブ」って、なんか変な感じがしてさ。確かに、日本語でも陽性と陰性って、言うからね。
そういう意味では、陽性がポジティブ、陰性がネガティブであれば、日本語も英語も同意ということになるんだけどさ。
エミリー: うん、それはよくある違和感だと思うよ。でも英語では、「positive」と「negative」って、気持ちのことだけじゃなくて、何かが“あるか・ないか”っていう事実に対しても使うの。
ヒロシ: へえ、じゃあ、「positive」は“ある”ってこと?
エミリー: そう。たとえばウイルス検査だったら、「positive」はウイルスが検出された、「negative」は検出されなかったってこと。
ヒロシ: ああー、なるほどな…。それで「ポジティブ=感染してる」って意味になるのか。
エミリー: うん、そして日本語であまり意識されない使い方が、数学にもあるよ。たとえば「負の数」って、日本では「マイナス」って呼ばれるけど、英語だと「ネガティブ・ナンバー」って言うの。
ヒロシ: えっ、マジで?「マイナス・スリー」とかじゃないの?
エミリー: 「minus」は数式で引き算の記号として使うのが普通かな。「2 minus 5 equals negative 3」って言うの。数の性質を言うときは「negative」って言うよ。
ヒロシ: えー、知らなかったな。もともと「ネガティブ」「ポジティブ」も英語だと思うけど、英語本来の使い方がもっとあるなら教えてよ。
エミリー: もちろん!じゃあ、そのあたりをもう少し詳しく説明するね。
解説:「ポジティブ・ネガティブ」という言葉について
「ポジティブ(positive)」と「ネガティブ(negative)」は、もともと英語由来の言葉ですが、日本語では主に「前向き/後ろ向き」「楽観的/悲観的」といった感情や性格を表す言葉として使われています。しかし、英語ではこれらの語にもっと広い意味があり、「あるか・ないか」「正か・負か」といった事実的な用法が日常的に使われています。
そのため、「感染=ポジティブ」や「−3=ネガティブ・スリー」といった表現に、日本語話者が違和感を覚えるのは自然なことです。
語構造の分析
- positive:ラテン語 positivus(置かれた、確定した)に由来し、「存在する・肯定的」という意味合いを持ちます。
- negative:ラテン語 negativus(否定する)に由来し、「存在しない・拒絶・否定」という意味が基盤です。
これらの意味は、英語において医療・科学・数学・技術などの分野でも共通しており、価値判断を含まない「事実の有無」や「状態」を表す表現として使われています。
ネガティブ/ポジティブの日米比較表
分野 | 日本語の使い方 | 英語の使い方 | 備考 |
---|---|---|---|
心理・性格 | 「ポジティブ=前向き」「ネガティブ=後ろ向き」 | positive attitude, negative thinking。ただし optimistic/pessimistic もよく使う | 日本語はカタカナで直接言いやすいが、英語は場面によって表現を選ぶ |
医学検査 | 「陽性/陰性」 | positive / negative test result | 共通。コロナ検査などでおなじみ |
血液型 | 「B型Rh+/B型Rh−」 | B positive / B negative | 日本語ではプラス・マイナスを使うことが多い |
電気(バッテリー) | 「プラス極/マイナス極」または「陽極/陰極」 | positive terminal / negative terminal | 表記は+/−だが英語ではポジティブ/ネガティブを使う |
写真 | 「ネガ/ポジ」 | negative film / positive print | デジタル普及で日常では減ったが同じ概念 |
軍事・通信 | あまり一般人は使わない。「ネガティブ=却下」のニュアンスは映画で聞く程度 | Negative = No, Affirmative = Yes | 無線通信で聞き間違いを避けるため |
数学(負の数) | 「マイナス5」「負の5」 | negative five | 英語では “minus five” は誤り(計算指示に聞こえる) |
計算(引き算) | 「5マイナス2」 | five minus two | 英語は「記号としての−」は minus |
気温 | 「マイナス10度」 | minus ten degrees(口語)/negative ten degrees(フォーマル) | 英語は both OK、日本語はほぼ「マイナス」固定 |
スコア・成績 | 「マイナス点」「Bマイナス」 | minus points, B minus | 英語は minus だけ。B negative は血液型 |
経済・口座残高 | 「マイナス残高」「赤字」 | negative balance | 英語では minus balance はあまり言わない |
英語訳との構造比較
- positive:存在する、肯定されている状態 → 医学検査の陽性、電気の正極など
- negative:存在しない、拒絶されている状態 → 検出なし、負の数、口座の残高など
例文:
- The test came back positive.(検査結果は陽性でした。)
- He has a very positive outlook on life.(彼はとても前向きな人生観を持っています。)
- The number −3 is a negative number.(−3は負の数です。)
近いが異なる英語表現との比較
- minus vs. negative:
- “minus” は演算・記号の意味(例:5 minus 2)
- “negative” は数の性質・方向を表す(例:negative five)
- optimistic / pessimistic:
- 「positive / negative」と似ているが、感情・考え方に特化しており、ニュアンスがより明確です。
文化的・社会的意味の翻訳
日本語では「ポジティブ=良い」「ネガティブ=悪い」といった感情的評価が強く反映されています。そのため、「ポジティブな結果(=感染)」という言い方に違和感を抱くのは自然です。
一方、英語では「positive」「negative」はあくまで状態や事実の説明であり、必ずしも感情的な意味合いを伴うとは限りません。この「評価を含まない事実の表現」という点が、英語本来の使い方の核心です。
JLPTの目安レベル
- ポジティブ:N3程度
- ネガティブ:N3程度
※日本語能力試験(JLPT)では、出題語彙の公式リストは公開されていません。このレベル表示は、実際の試験問題や教材に基づいた目安として記載しています。
補足:
「ポジティブ」「ネガティブ」は、カタカナ語でありながら日常語彙として広く定着しているため、JLPTのN3レベル以降で出題される可能性があります。特に、以下のような形で登場することが考えられます:
- 読解・聴解問題での文脈理解:「この人の考え方はポジティブですか、ネガティブですか?」といった設問形式
- 会話文中の性格・態度の描写:「彼はいつもポジティブな意見を言います」など
ただし、以下のような専門的な用法(英語本来の使い方)は、出題される可能性が低いと考えられます:
- 医療・検査(positive/negative result)
- 数学(negative number)
- 通信・軍事(negative = no)
出題されやすいのは、「前向き」「後ろ向き」という日本語的な意味で定着したカタカナ語としての用法です。