
大学の授業終わり、春の陽気に誘われてキャンパス近くのカフェに立ち寄ったヒロシとエミリー。メニューを見ながら、ふとエミリーが思い出したように言った。
エミリー: ねえヒロシ、「気のおけない」人ってどういう意味?今日の授業で出てきたんだけど、よくわかんなくて。
ヒロシ: あー、それね。確かに、日本語っぽい言い回しだよな。うーん…直訳すると「気のおけない=気を使わずにいられる人」って感じかな。
エミリー: え、でも「気のおけない」って、逆に、気を張ってる感じがするんだけど?緊張感ずっとみたいな。
ヒロシ: だよね、最初は逆に思うよね。実は「気をおく」ってのが「気を使う」とか「遠慮する」って意味なんだ。だから「気のおけない人」ってのは、遠慮しなくていい人。つまり、すごく自然体でいられる相手。
エミリー: なるほど…。じゃあ、たとえばヒロシとか?気を使わないでいられるし。
ヒロシ: そうそう、俺もエミリーとはなんでも話せるし、無理にかしこまったりしないからさ。そういうのが「気のおけない関係」ってやつ。
エミリー: 英語だと…”someone I can be myself around”とか”someone I feel totally comfortable with”…あと…”no need to put on a mask”って言うかも。
ヒロシ: え、えっと…”マスクかぶらない”…?なんとなく言いたいことはわかるけど、ちょっと難しいな、そういう英語。
エミリー: あ、ごめんごめん、つまり「仮面をかぶらず、本当の自分でいられる」って意味。
ヒロシ: あー、なるほどね。でもなあ…なんか、それでもまだちょっと違う気がする。
エミリー: どう違うの?
ヒロシ: うまく言えないんだけど、「気のおけない」って、もっと空気みたいなもんなんだよね。言葉にしづらいけど、距離が自然に近くて、お互いに無理してない感じ。沈黙があっても気まずくないとか、そういうの。
エミリー: ああ…そういう微妙な距離感、アメリカではあんまり意識しないかも。英語だと「どう感じるか」を言うけど、「相手が気を使わせない人」って言い方、あんまりしない気がする。
ヒロシ: そうだよね。日本語って、相手との「間」とか「空気感」にすごく敏感だからさ。それを大事にする文化だと思う。だから「気のおけない」って、ちょっと詩的っていうか…関係の“質”を一言で表してる感じがするんだよね。
エミリー: なるほどね。すごい面白い。たしかにそういう表現、英語にはなかなかないかも。
ヒロシ: まあでも、エミリーとはそういう関係だよ。俺はそう思ってる。
エミリー: うれしい!私もそう思ってた。ヒロシとは、ずっと気のおけない関係でいたいな。
ヒロシ: うん、俺も。ずっとこのまま、気楽に話せる関係でいような。
解説
気のおけない(ki no okenai/気の置けない)
「気のおけない人」は、遠慮や気遣いをせず、自然体でいられる相手のことを指します。友人や親しい同僚など、気楽に付き合える関係に使われることが多く、人間関係の「空気感」や「距離感」を重視する日本語らしい表現です。
英語での表現例とニュアンスの違い
英語にも「気のおけない」に近い意味の表現はありますが、人を評して使うよりも、自分の感情や感じ方を中心に表現する傾向があります。以下に、対応しそうな表現をいくつか紹介します。
- He is someone I can be myself around.
彼は自分らしくいられる相手だ。
→ 「ありのままの自分でいられる」感覚を表す、親しみのある表現。 - He is someone I feel totally comfortable with.
彼は完全に安心できる人だ。
→ 安心感・信頼感を伝える表現。カジュアルでもフォーマルでも使える。 - When I’m with him, there’s no need to put on a mask.
彼と一緒にいるときは、仮面をかぶる必要がない=自然体でいられる。
→ 「本音で接することができる」「気取らなくていい」状況を表す比喩的な表現。
文化的な補足
英語では「相手が気のおけない人」という形ではあまり言わず、「自分がどう感じるか」にフォーカスした言い回しが中心です。一方、日本語では相手の人柄を評価する形(例:「彼は気のおけない人だ」)でよく使います。
この違いは、日本語が人との「距離感」や「空気」を表すことに長けていることを示しており、「気のおけない」という表現も、その独特な文化的背景を反映しています。
「気のおけない」を英語で説明する
“Ki no okenai” describes someone you feel so comfortable with that you don’t have to be formal, polite, or self-conscious. It captures a uniquely Japanese sense of closeness, where the atmosphere and emotional distance matter deeply.
「気のおけない」は、かしこまったり、礼儀正しくしすぎたり、気をつかう必要のない相手のことを表します。日本語特有の、人との距離感や空気感を大切にする文化が表れた表現です。
「気のおけない(気の置けない)」は日本語能力試験(JLPT)N1に該当します。
※日本語能力試験(JLPT)では、出題語彙の公式リストは公開されていません。このレベル表示は、実際の試験問題や教材に基づいた目安として記載しています。