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会話の格闘技?「マウントを取る」は英語で通じる?

大学の帰り道、ヒロシはいつになく口数が少なかった。エミリーが声をかけると、彼は「今日さ、サークルの先輩にまたやられてさ」とぽつりとつぶやいた。話を聞けば、練習中にその先輩が、いつも自分の経験や技術をひけらかすような言い方をするらしい。


ヒロシ あの先輩、ほんとマウントばっか取ってくるんだよね。

エミリーマウントを取る」って、どういう意味?なんか面白い表現だね。

ヒロシ え、マウントを取るって…英語から来たんじゃないの?

エミリー うーん、「mount」って英語にはあるけど、そういう意味ではあまり使わないかな。どういう感じで使ってるの?

ヒロシ なんかさ、「俺のほうが上だぞ」って態度で話してくる感じ?たとえば、サッカーの話とか、昔の経験をドヤ顔で語ってきてさ。

エミリー なるほどね。じゃあ、ちょっと上から目線な言い方ってこと?

ヒロシ そうそう。それでさ、たぶん元の意味は格闘技なんだよ。「マウント・ポジション」ってあるじゃん。相手の上に乗るやつ。

エミリー あ、そういう技があるんだ。なるほど、そこから「上に乗る=精神的に上に立つ」って意味になったんだね。

ヒロシ そう、そんな感じ。で、それが転じて「マウントを取る」って言い回しになってるんだと思う。

エミリー 面白いね。英語の "mount" とは意味が違ってて、ちょっと和製英語っぽいかも。

ヒロシ そうなの?オレ、てっきり英語の表現だと思ってた。

エミリー 英語で「自分のほうが上だ」って言いたいときは、"one-up someone" とか "assert dominance" って言うかな。でも「マウント」って聞くと普通は「馬に乗る」とか「写真を台紙に貼る」とか、全然違う意味を思い浮かべるかも。

ヒロシ へぇー、じゃあ「マウントを取る」って英語では通じないのか。なんか、またひとつ勉強になったよ。

解説:「マウントを取る」という言葉について

「マウントを取る」という表現は、日本語の日常会話において、特に人間関係やSNSの文脈で頻繁に使われる現代的な比喩表現です。これは「他人よりも優位に立とうとする」「自分のほうが上だと見せつける」といった心理的・言語的行動を指します。英語のように見える語を用いていますが、これは実際には日本独自の意味変化を遂げた和製英語の一例です。

語構造の分析:

この表現は、本来の「マウント(mount)」という外来語に由来します。英語の "mount" は「乗る」「登る」などの意味がありますが、日本語での使用は格闘技の「マウント・ポジション」(相手に馬乗りになる体勢)から転じたものです。この「物理的に上に乗る」という構造が、そのまま「精神的に上に立つ」行為に比喩として応用されています。

英語訳との構造比較:

「マウントを取る」に最も近い英語表現は、

  • one-up (someone):相手よりも優れていることを示して、相手を下に見せる行為
  • assert dominance:優位性を主張・確立しようとする行動

の2つが挙げられます。

たとえば、以下のような英語の会話例は、日本語の「マウントを取る」に非常に近い状況です:

  • "Whenever I tell a story, Jake always tries to one-up me with something even more impressive."(僕が話をすると、ジェイクはいつももっとすごい話をして、マウントを取ろうとしてくる)
  • "During the meeting, she kept interrupting everyone and correcting them, as if she was trying to assert her dominance."(会議中、彼女は皆の話を遮って訂正ばかりしていて、まるでマウントを取ろうとしているみたいだった)

このように、どちらの表現も相手との「優劣関係」を意識した行動に用いられます。ただし、「one-up」は軽い会話の中での競争心に近く、「assert dominance」はより強く支配的な印象があります。日本語の「マウントを取る」はその中間に位置し、文脈に応じて柔らかくも皮肉っぽくもなります。

近いが異なる英語表現との比較:

  • boast(自慢する):単に自分の話をすることで、「相手を見下す意図」があるとは限りません。
  • brag(誇示する):ややネガティブな意味合いを持ちますが、「比較の意識」は薄い場合もあります。

つまり、「マウントを取る」は「比較によって他人を下に見る」要素があるため、単なる自慢とは異なります。

文化的・社会的意味の翻訳:

日本の人間関係では、「謙遜」や「和を保つこと」が重視されます。そのため、「自分が優れている」と露骨に示す行為は、他人から警戒されたり、疎まれたりすることがあります。「マウントを取る」は、そのような不快感や違和感を示す言葉として機能します。

特にSNSや職場など、非対等な関係が生まれやすい場面で、「マウントを取るなよ」と言うことで、暗に「対等であろう」という社会的要請を含んでいるとも言えるでしょう。

「マウントを取る」を英語で説明する

"Taking a mount" in Japanese slang refers to trying to assert one's superiority over others in a conversation, often by showing off achievements, knowledge, or experience in a way that puts others down.
日本語のスラングで「マウントを取る」とは、会話の中で自分の優位性を示し、他人を下に見るような形で自慢や経験を語る行為を指します。

It's derived from martial arts, where 'mounting' means taking a dominant position on top of an opponent—this physical image is metaphorically applied to social or verbal dominance.
この表現は格闘技の用語から来ており、「マウント」は相手の上に乗る優位な体勢を意味します。その身体的イメージが、会話や人間関係の中での「精神的優位」に比喩的に使われています。


JLPTの目安レベル

N2レベル

※日本語能力試験(JLPT)では、出題語彙の公式リストは公開されていません。このレベル表示は、実際の試験問題や教材に基づいた目安として記載しています。


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