
昼休みの大学の学食。ヒロシは数人の友人とテーブルを囲み、昼食をとっていた。
テーブルからは何度も笑い声が上がっている。なかでも、ヒロシの隣に座っている友人のタクヤは、みんなから次々に冗談を言われ、そのたびに笑いながら言い返していた。
そこへ、昼食を買いに来たエミリーがヒロシたちを見つけた。ずいぶん楽しそうなので、気になって近づいていく。
エミリー:「あ、ヒロシ。みんな楽しそうだね。何の話?」
ヒロシ:「あ、エミリー。いや、こいつがさ、さっきの授業で居眠りしてて、教授に急に質問されたんだよ。」
エミリー:「えっ、授業中に寝てたの?」
ヒロシ:「そう。慌てて答えたんだけど、もう全然ピント外れでさ。みんな大笑いだったんだよ。」
タクヤ:「いや、あれは質問が急すぎたんだって!」
ヒロシ:「寝てたんだから、急も何もないだろ(笑)。」
タクヤ:「お前、さっきから何回その話するんだよ!」
ヒロシ:「ははは、ごめんごめん。こいつ、普段からみんなにいじられてるんだよ。こういうことがあると、余計に盛り上がっちゃってさ。」
エミリー:「ふふ、そうだったんだ。タクヤ、災難だったね。」
タクヤ:「ほんとだよ。俺だって好きで寝てたわけじゃないんだけどな。」
ヒロシ:「そこは反省しろよ(笑)。」
しばらくして、タクヤたちは午後の授業に向かい、テーブルにはヒロシとエミリーが残った。
エミリー:「ねえ、さっきヒロシが『いじられてる』って言ってたでしょう。『からかわれる』って言葉もあるよね。なんか似てるね。」
ヒロシ:「ああ、そうだね。似てるけど、まったく同じって感じでもないな。」
エミリー:「さっきは、タクヤも笑って言い返してたよね。」
ヒロシ:「うん。あいつ、いつもあんな感じなんだよ。みんなにいじられるけど、自分からも冗談を言うしさ。完全にいじられキャラだな。」
エミリー:「いじられキャラ……。そういう言い方もあるんだね。」
ヒロシ:「そうそう。なんか、みんながついあいつのことを話題にしちゃうんだよな。」
エミリー:「でも、『からかわれる』場合でも、仲のいい友達同士で冗談を言い合うことはあるよね。」
ヒロシ:「あるね。うーん、どこが違うんだろう。そういえば『いじる』って、人だけじゃなくて物にも使うよな。」
エミリー:「物にも?」
ヒロシ:「うん。スマホをいじるとか、髪をいじるとか、パソコンの設定をいじるとか。」
エミリー:「ああ、そういう『いじる』もあるね。でも、『友達をいじる』とは、ずいぶん意味が違って聞こえる。」
ヒロシ:「確かに。スマホをからかう、とは言わないもんな(笑)。」
エミリー:「ふふ、スマホが困った顔をするなら、からかえるかもしれないけど。」
ヒロシ:「ははは、それはちょっと見てみたいな。」
エミリー:「それに、人をいじる場合も、誰に言われるかで感じ方が違いそうだね。」
ヒロシ:「ああ、それはあると思う。タクヤみたいに友達同士で笑って言い合えるならいいけど、例えば、先輩からしつこくいじられたら、嫌でも笑ってるしかないこともあるだろうし。」
エミリー:「同じような冗談でも、相手との関係で変わるんだね。」
ヒロシ:「そうだね。いじってるほうは仲がいいつもりでも、いじられてるほうは嫌かもしれないしな。」
エミリー:「英語の tease も、親しい人同士で使うこともあれば、相手が嫌がっている場合もあるよ。」
ヒロシ:「へえ。じゃあ、人をいじるときは tease で言えることもあるんだ。」
エミリー:「うん。でも、さっきの『いじられキャラ』みたいに、その人がグループの中でどんな役回りなのかまで言いたいなら、もう少し説明したくなるかな。」
ヒロシ:「なるほどな。『いじる』って、何をするかだけじゃなくて、誰と誰の間でやってるかも大事なんだな。」
エミリー:「そうだね。ところでヒロシ、午後の授業は?」
ヒロシ:「あっ、やばい! あと五分しかない!」
エミリー:「ふふ。今度はヒロシが居眠りして、みんなにいじられないようにね。」
ヒロシ:「勘弁してくれよ。俺までタクヤみたいになっちゃうだろ(笑)。」
解説:「いじる」という言葉について
「いじる」は、日常会話で幅広く使われる日本語です。
「スマホをいじる」「髪をいじる」「設定をいじる」のように物や状態に対して使うこともあれば、「友達をいじる」「先輩にいじられる」のように、人に対して使うこともあります。
今回のエピソードでヒロシが使ったのは、人に対する「いじる」です。
タクヤは授業中の失敗を友人たちに笑いの話題にされていました。しかし、本人も冗談を言い返し、その場の会話に参加しています。
こうした場面で使われる「いじる」は、「からかう」とよく似ています。ただし、二つの言葉がいつでも同じ意味になるわけではありません。
「いじる」の語構造と意味の広がり
「いじる」は、漢字では「弄る」と書くことがありますが、現代の日常的な文章では、ひらがな表記も一般的です。
「弄」という漢字には、手で扱う、もてあそぶ、からかうといった意味があります。ただし、漢字の意味だけで現代日本語のすべての用法や、その成立順序が説明できるわけではありません。
「いじる」には、主に次のような使い方があります。
| 日本語 | 意味 | 英語表現の例 |
|---|---|---|
| スマホをいじる | 触ったり操作したりする | play around with one's phone |
| 髪をいじる | 髪に触れて動かす | fiddle with one's hair |
| 機械をいじる | 機械に手を加える | tinker with a machine |
| 設定をいじる | 設定を変更・調整する | tweak the settings |
| 友達をいじる | 言動や特徴を取り上げて冗談の対象にする | tease a friend |
物に対する「いじる」では、触る、操作する、手を加えるといった行為が中心になります。
人に対する「いじる」では、その人の特徴や失敗、発言などを取り上げ、冗談や笑いにつなげることがあります。
両者には、対象に働きかけるという共通点を見いだすこともできます。しかし、「物をいじる」から「人をいじる」という意味が歴史的に生まれた、と断定するには、別途、語史の確認が必要です。
「いじる」と「からかう」は何が違うのか
「からかう」は、相手に冗談を言ったり、わざと反応を引き出したりして面白がる行為を表します。
通常、その対象は人です。
一方、「いじる」は人にも物にも使われます。そして、人に対する用法では、単に相手をからかうだけでなく、その人の特徴や言動を、会話や笑いの材料として取り上げるという意味合いが表れる場合があります。
例えば、友人が変わった髪型にしたとします。
「友達に髪型をからかわれた」
「友達に髪型をいじられた」
どちらも自然な日本語です。
前者では、相手から冗談を言われたり、面白がられたりした行為が比較的はっきり感じられます。
後者では、髪型が友人たちの話題になり、冗談を交わすきっかけになった場面も想像できます。
ただし、これは傾向的な違いであり、実際には意味が大きく重なります。
「からかう」にも親しみのある使い方があり、「いじる」にも相手を傷つける使い方があります。どちらか一方だけが温かい言葉、あるいは悪意のある言葉というわけではありません。
「いじられキャラ」という言葉
人に対する「いじる」を考えるとき、興味深いのが「いじられキャラ」という表現です。
これは、周囲から冗談を言われたり、自分の言動を笑いの話題にされたりすることが多い人物を指す言い方です。
単に一度からかわれたというだけではなく、ある集団の中で、そうした役回りになっていることを表す場合があります。
今回のタクヤは、友人たちに冗談を言われながらも、自分から言い返しています。ヒロシは、そうした普段のやり取りを見て「いじられキャラ」と表現しました。
ただし、「いじられキャラ」は、その人に生まれつき備わった性格とは限りません。
ある友人グループではよくいじられる人が、別の集団では冗談を言う側になることもあります。
つまり、この表現には、本人の特徴だけでなく、周囲との関係の中で生まれる役割という側面もあります。
誰にいじられるかによって、感じ方が変わる
「いじる」には、親しみを感じさせる使い方があります。
例えば、仲のよい友人同士が失敗談を笑い合い、本人も楽しそうに言い返している場面です。
しかし、同じような冗談でも、相手との関係によって受け止め方は変わります。
仲のよい友人から言われれば笑って返せることでも、立場が上の先輩から繰り返し言われると、嫌だと思っても反論しにくい場合があります。
また、同じ先輩後輩の関係でも、親しみを感じる場合と、負担に感じる場合があります。
ここで重要なのは、「いじっている側の気持ち」と「いじられている側の気持ち」が、必ずしも一致しないことです。
周囲が「仲がいいからいじっている」と考えていても、本人がそう感じているとは限りません。
逆に、本人もそのやり取りを楽しんでいる場合もあります。
したがって、「いじる」という言葉だけで、親愛があるとも、悪意があるとも決めることはできません。
誰が誰に対して、どのようなことを言い、相手がどう受け止めているのか。その関係を見なければ、言葉の響きは十分には分からないのです。
英語では「いじる」をどう表現するのか
人に対する「いじる」に近い英語として、まず挙げられるのが tease です。
My friends always tease him about falling asleep in class.
「友達はいつも、授業中に居眠りしたことをネタに彼をいじっています。」
Tease は、親しい人同士の軽いからかいにも、相手が不快に感じるからかいにも使われます。
親しみのある冗談だと明確にしたい場合には、playfully を加えることもできます。
They were playfully teasing each other.
「彼らは冗談を言って、お互いをいじり合っていました。」
一方、特定の人が繰り返し標的にされているような場合には、pick on someone が適切になることがあります。
The older students kept picking on him.
「先輩たちは彼をしつこくからかっていました。」
この pick on には、相手を標的にして困らせるという否定的な響きがあります。楽しい冗談の場面に、そのまま使う表現ではありません。
また、相手を笑いものにすることを強調する場合には、make fun of someone という表現もあります。
I don't like it when people make fun of him.
「みんなが彼を笑いものにするのは好きではありません。」
このように、英語では、冗談の親しさ、相手への影響、繰り返される行為なのかといった点によって、表現が変わります。
「いじられキャラ」は英語で何と言う?
「いじられキャラ」には、どの場面でも使える決まった一語訳があるわけではありません。
例えば、タクヤのように友人たちからよく冗談を言われる人なら、次のように説明できます。
He's the one everyone likes to tease in our group.
「彼は、うちのグループでみんなによくいじられる人です。」
この英文では、the one everyone likes to tease によって、その集団でよく冗談の対象になる人物であることを表しています。
ただし、likes to tease だけでは、本人もそのやり取りを楽しんでいるかどうかまでは分かりません。
本人も笑って言い返す関係なら、その様子を加えると、より自然に伝わります。
Everyone teases him, but he always jokes right back.
「みんな彼をいじるけれど、彼もいつも冗談で言い返します。」
「いじられキャラ」という日本語が示す集団内の役回りを伝えたいときには、このように関係や振る舞いを説明することが有効です。
物に対する「いじる」は、さらに英語が分かれる
人に対する「いじる」を tease と訳せる場合があっても、物に対しては別の英語が必要になります。
例えば、次のような表現です。
He was fiddling with his hair.
「彼は髪をいじっていました。」
I was tinkering with my computer.
「パソコンをいじっていました。」
She tweaked the settings a little.
「彼女は設定を少しいじりました。」
Fiddle with は、指先で触ったり、何となく動かしたりする様子に合います。
Tinker with は、機械などを試しながら調整したり、手を加えたりする場面に使えます。
Tweak は、設定や仕組みに小さな変更を加えることを表します。
日本語では同じ「いじる」を使っていても、英語では実際に何をしているのかによって、表現を選び分ける必要があります。
「いじる」を英語で説明する
English Explanation

The Japanese verb ijiru has several meanings depending on what or whom it refers to.
When used with objects, it can mean touching, fiddling with, adjusting, or tinkering with something. For example, someone might ijiru their hair, phone, or computer settings.
When used with people, ijiru often refers to teasing someone or making their habits, mistakes, or personal characteristics the subject of jokes.
This kind of teasing can be friendly, especially among people who know each other well. The expression ijirare-kyara describes someone who often ends up being teased or joked about within a group.
However, ijiru does not automatically mean that everyone is enjoying the interaction. How it feels can depend on who is doing the teasing, the relationship between the people involved, and whether the person being teased feels free to respond or object.
In English, tease is often a good translation, but expressions such as pick on someone or make fun of someone may be more appropriate in negative situations.
To understand ijiru, we need to look not only at the action itself, but also at the relationship between the people involved.
日本語訳
日本語の動詞「いじる」には、何を、あるいは誰を対象にしているかによって、いくつかの意味があります。
物に対して使う場合には、触る、指先で動かす、調整する、手を加えるといった意味になります。例えば、髪やスマートフォン、パソコンの設定などを「いじる」と言います。
人に対して使う場合には、相手の癖や失敗、特徴などを冗談の話題にしたり、からかったりすることを表す場合があります。
こうしたやり取りは、特に親しい人同士では、友好的な冗談になることがあります。「いじられキャラ」は、集団の中でよく冗談を言われたり、笑いの話題になったりする人物を表す言葉です。
ただし、「いじる」という言葉が使われたからといって、全員がそのやり取りを楽しんでいるとは限りません。
誰がいじっているのか、どのような関係なのか、いじられる側が自由に言い返したり、嫌だと言えたりするのかによって、感じ方は変わります。
英語では tease が近い訳になることが多いものの、否定的な状況では pick on someone や make fun of someone のほうが適切な場合もあります。
「いじる」を理解するには、行為そのものだけでなく、その場にいる人たちの関係にも目を向ける必要があります。
JLPTの目安レベル
N2程度(目安)
「いじる」は日常会話で使われる語ですが、物に対する使い方と、人に対する使い方では意味が異なります。
また、「いじられる」「いじられキャラ」などの表現を理解するには、言葉の意味だけでなく、会話の状況や人間関係を読み取る力も必要になります。
※日本語能力試験(JLPT)では、出題語彙の公式リストは公開されていません。このレベル表示は、実際の試験問題や教材に基づいた目安として記載しています。















