
エミリーは夕方、ヒロシに電話をかけた。週末の予定を相談するためだったが、電話に出たヒロシはちょっと慌てた様子でこう言った。「今ちょうど風呂入るとこなんだ。すぐ出るから、あとでこっちからかけなおすね」。その言葉通り、10分もたたずにヒロシから電話がかかってきた。その早さにエミリーはびっくり。そこから話題は「カラスの行水」へと広がっていく。
エミリー: もう出たの?早くない?!
ヒロシ: うん、俺いつも「カラスの行水」だから。
エミリー: カラスって…crowのカラスよね?あの黒い鳥?
ヒロシ: そう、それ。日本ではカラスが水浴びする時、ちょっとバシャバシャってしてすぐ飛んでっちゃうでしょ?それにたとえて、すっごく短くお風呂をすませることを「カラスの行水」って言うんだよ。
エミリー: へー、おもしろい比喩!でも、「行水」ってなに?
ヒロシ: 昔の日本ではね、お風呂じゃなくて、大きなボウルとかタブに水をためて、それを体にかけて洗ってたんだ。シャワーがない時代の、簡単な洗い方って感じかな。それを行水って言ったんだ。
エミリー: ああ、なるほど。シャワーとちょっと似てるけど、もっと原始的な感じだね。
ヒロシ: そうそう。だから「行水」っていうのは、今で言うと「さっとシャワーを浴びる」みたいな意味になるんだよ。英語だと、そういう短いお風呂を表す表現ってあるの?
エミリー: 完全に同じ比喩はないけど、たとえば take a quick shower(さっとシャワーを浴びる)とか、in and out of the shower(すぐ入ってすぐ出る)って言い方はよく使うよ。
ヒロシ: 直訳って感じだね。もっと面白い表現とかないの?
エミリー: あるよ、bird bath って言葉もある!顔とか脇とか、体の一部を洗うときに使う。ふざけた感じだけど。
ヒロシ: へぇ、それ「カラスの行水」とけっこう似てるかも。
エミリー: でしょ?あと Navy shower っていうのもあるよ。軍隊式で、水をちょっとだけ出してすぐ止めるやつ。
ヒロシ: へぇ~、アメリカにも短風呂文化あるんだね(笑)
エミリー: あるある。でも「カラスの行水」って響きのかわいさはないなー。
ヒロシ: だろ?日本語ってそういうとこ面白いんだよ。
エミリー: ほんとに。今日また一つ、おもしろい日本語を覚えたわ。
ヒロシ: これで次から俺が早く風呂出てもびっくりしないでね(笑)
エミリー: うん、もう「ヒロシ=カラス」って覚えとく(笑)
解説
カラスの行水(karasu no gyōzui / カラスの行水)
「カラスの行水」とは、とても短い時間でお風呂をすませることを意味する日本語の慣用表現です。
カラス(=crow)は水浴びをするとき、バシャバシャと羽を動かし、短時間で終えることが多いため、その行動にたとえて作られた比喩です。ただし、他の鳥も水浴びは基本的に短時間なので、特にカラスだけが短いという科学的根拠はありません。つまり、この表現は動作の印象から生まれた日本語独特のユーモアある言い回しです。
行水(gyōzui / 行水)とは?
「行水」は昔の日本で使われていた入浴スタイルで、水を入れた容器(たらいや桶など)を使い、体に水をかけて洗う方法。現代のシャワーに近いけれども、もっと簡易的で、短時間で済ませるものでした。
英語での表現例
- take a quick shower(さっとシャワーを浴びる)
I usually take a quick shower in the morning before work.
(私は朝、仕事の前にさっとシャワーを浴びるのが普通です) - in and out of the shower(シャワーにすぐ入ってすぐ出る)
He was in and out of the shower in five minutes.
(彼は5分でシャワーを終えた) - rinse off(軽く洗い流す)
I just need to rinse off after the gym.
(ジムの後は軽く汗を流すだけでいい) - Navy shower(軍隊式の節水シャワー)
On camping trips, I take a Navy shower to save water.
(キャンプのときは水を節約するためにネイビーシャワーを使ってるよ) - bird bath(体の一部だけを洗う簡単な洗浄)
There’s no time for a full shower, so I’ll just do a bird bath.
(シャワーを浴びる時間がないから、軽く体だけ洗うよ)
「bird bath」は比喩的でユーモアもあり、「カラスの行水」に最も近い英語表現です。
「カラスの行水」を英語で説明
Topic: “Karasu no gyōzui” – a Japanese idiom that describes someone who takes an extremely quick bath, likened to how a crow (karasu) splashes briefly in water and flies away.
This phrase shows how Japanese often uses animals as metaphors for human behavior. Although birds in general tend to bathe quickly, the crow’s splashy and brief movement left a strong impression, giving rise to this unique expression. There is no exact English equivalent, but humorous phrases like “bird bath” or practical terms like “Navy shower” come close.
話題:「カラスの行水」— 水に少しだけ入ってすぐ出るカラスの動作になぞらえ、「とても短い入浴」を表す日本語の慣用句です。
この表現は、日本語でよく見られる「動物の行動を人間の習慣や性格にたとえる」言語文化の一例です。鳥の水浴びは一般に短時間ですが、カラスの動きが特に印象的だったため、このようなユニークな比喩が生まれました。英語にぴったりの対応表現はありませんが、ユーモラスな表現として “bird bath”、実用的なものとして “Navy shower” などが近いです。