pickup
悲しいだけじゃない「やるせない」 英語ではどう表せる?

昼休み、ヒロシはベンチでスマホを見ながら、ふぅと小さく息をついた。そこにエミリーが気づく。


エミリー: あれ?ヒロシ、さっき誰かと電話してた?

ヒロシ: うん。高校のサッカー部の先輩。久しぶりに連絡きてさ。

エミリー: へぇ、仲良かったの?

ヒロシ: うん。あの人、めっちゃ上手くてさ。みんな「絶対プロ行く」って言ってた。でも大学でケガして、結局サッカーやめたらしい。

エミリー: ……そうなんだ。それはショックだね。

ヒロシ: 本人は、すごくあっけらかんとしてたけど……正直、なんかやるせないんだよな。

エミリー:やるせない」?また出た、日本語むずかしいシリーズ(笑)それ、どういう気持ち?

ヒロシ: うーん……誰も悪くないし、責める相手もいない。でも、あんなに頑張ってたのにって思うと、モヤモヤする。何もできなかったし、ただ聞いてるしかないのが、つらいというか…。

エミリー: なるほど……英語だったら、“I feel powerless”とか、“It breaks my heart”って言うかな。でも、どれもしっくりこない気がする。

ヒロシ: そう、そうなんだよ。ぴったりな言葉、ないんだよな。

エミリー: “Yarusenai”…って、じわっと胸の奥に残る感じだね。

ヒロシ: うん。まさにそれ。

解説

「やるせない」という言葉には、単なる悲しさや悔しさでは表現しきれない、複雑な感情の重なりがあります。無力感や報われなさ、理不尽さを静かに抱え込みながら、どうすることもできない気持ちが、ゆっくりと胸に広がっていくような印象です。

この言葉が使われるのは、たとえば誰かの努力が報われなかったときや、避けようのない事情で何かを諦めざるを得なかったときなどです。相手も納得して受け入れているように見えても、そばにいる人の心には、やり場のない感情が残ることがあります。そのときに自然と出てくるのが「やるせない」という言葉です。

英語には、このような感情を一語で表すぴったりの表現はあまり見られません。そのため、英語で伝えるには、まず「誰が」「何に対して」「どんな気持ちを持ったのか」という構造を丁寧に見ていく必要があります。

  • 誰が:ヒロシ
  • 何に対して:高校時代のサッカー部の先輩がプロの夢を諦めたことに対して
  • どんな気持ちか:無力感、報われなさ、悔しさ、静かな悲しみ

こうした感情を英語で伝える場合、次のような表現が見られます。

It breaks my heart to hear that. He worked so hard… and yet, there was nothing anyone could do.
(そんな話、聞くだけで胸が痛みます。あんなに頑張っていたのに…誰にもどうすることもできなかったんですね。)

I feel so powerless. It just doesn’t feel fair, even though no one’s to blame.
(とても無力な気持ちになります。誰も悪くないのに、どうしてもやりきれないんです。)

どちらも「やるせない」をそのまま訳しているわけではありませんが、感情の構造を理解し、言葉を選ぶことで、英語でもその心の温度に近づくことができるかもしれません。

「やるせない」を英語で説明する

Yarusenai is a Japanese word that expresses a quiet, unresolved feeling of helplessness. It’s used when something sad or frustrating happens, but no one is to blame and nothing could have been done to prevent it. There’s a sense of emotional weight with nowhere to go. Words like “I feel powerless” or “It breaks my heart” may come close, but they don’t fully capture the still, internal ache the word carries.

「やるせない」は、日本語で使われる、静かで出口のない無力感を表す言葉です。何か悲しい、つらい出来事が起きたときに使われますが、その原因が誰かの責任ではなく、どうしようもなかったと感じるときに使われます。「I feel powerless(無力に感じる)」や「It breaks my heart(胸が痛む)」のような表現が近い場合もありますが、「やるせない」が持つ、心の奥に残る静かな痛みまでは、完全には言い表せないことが多いです。

Unlike English, which often encourages direct expression of emotion, Japanese sometimes gives shape to the lack of outlet itself. “Yarusenai” doesn’t cry out—it lingers, acknowledging the pain without demanding resolution. That quiet endurance may be part of why the word feels so uniquely Japanese.

英語では感情をストレートに言葉にする傾向がありますが、日本語では「感情の行き場のなさ」自体に名前を与えることがあります。「やるせない」は、誰かにぶつけることなく、ただ静かに受け止めるような感情です。その痛みは叫ぶことなく、心の中に留まり続けます。この静かな耐え方にこそ、日本語らしさが表れているのかもしれません。

JLPTの目安レベル

やるせない」は、JLPT(日本語能力試験)のN1レベルに該当すると考えられます。

※日本語能力試験(JLPT)では、出題語彙の公式リストは公開されていません。このレベル表示は、実際の試験問題や教材に基づいた目安として記載しています。

おすすめの記事