
エミリーは、東京の住宅街にあるホームステイ先のリビングで、そこへ、隣の家のおばさんが訪ねてきた。ふと聞こえてきたのは、ホストマザーと隣の家の女性の会話だった。ふたりは近所の誰かの家庭事情について、声を潜めながらも楽しげに話している。
「ま、下世話な話だけどさ〜」と、笑い混じりに言う隣人の声に、エミリーは顔を上げた。
「下世話」?…今の、どういう意味?」
翌日・・・・
エミリー: ねえヒロシ、ちょっと聞いてもいい?
ヒロシ: ん?どうした?
エミリー: ホームステイ先でね、ホストマザーと隣のおばさんが話してて、「下世話な話だけどさ〜」って言ってたの。下世話(げせわ)ってどんなときに使うの?
ヒロシ: あー、「下世話」か。たぶん、あんまり品のいい話じゃないって意味だね。
エミリー: へえ、じゃあ、失礼なことを言うときに使うの?
ヒロシ: そうそう。「これからちょっと俗っぽい話しますよー」って自分で認めながら話す感じ。
エミリー: 俗っぽいって…例えば?
ヒロシ: お金の話とか、人の恋愛の噂とか、家庭の内情とか。ちょっと他人のプライベートに踏み込むような話。
エミリー: なるほど、アメリカでも “This might sound gossipy, but…” とか言うなあ。
ヒロシ: まさにそれ!ゴシップっぽいけど、言いたい、みたいな時に使うんだよね。
エミリー: でもさ、「下世話」ってちょっと古風に聞こえた。若い人は使う?
ヒロシ: あんまりかな。今は「ゲスい話だけど」とか「ぶっちゃけ」とか言うほうが多いかも。
エミリー: じゃあ、おばさんたちが使ってたのは、ちょっと古いって感じ?
ヒロシ: うん、ある意味で懐かしいというか、あえて使ってユーモアっぽくする感じもあるかもね。
解説:「下世話」という言葉について
「下世話(げせわ)」とは、品のない、俗っぽい内容の話題や態度を指す言葉です。特に、他人の金銭事情、性や恋愛の噂、家庭のトラブルなど、公の場で口にするにはふさわしくないが、人の好奇心を刺激するようなテーマに使われます。
現代の若者世代の日常会話ではあまり使われなくなっており、やや古風な響きを持つ言葉でもあります。中高年以上の世代や、エッセイ・コラムなどの文語的な場面で使われることが多く、若者の間では「ゲスい」「ぶっちゃけ」などに置き換えられています。
語構造の分析
「下世話」は「下(げ)」+「世話(せわ)」から成り立っています。ここでの「下」は「下品」「卑しい」といった意味、「世話」は「関心」「関わり」の意味合いで使われ、「低俗な関心事」といったニュアンスになります。
英語訳との構造比較
英語に直訳できる単語は存在せず、ニュアンスを含めて訳す必要があります。以下のような前置き表現が近い用法を持ちます:
- “This may sound gossipy, but…”
- “Not the classiest topic, but…”
- “Kind of a tacky thing to say, but…”
いずれも、「これからあまり上品ではない話をする」という自覚と、話すことへの照れや免罪符を込めた表現です。
英語文化との違い
日本語では「下世話な話だけど」といった形で、話し手が“自分でもあまり品のいい話じゃないとわかっている”という意識を前置きとして示すことがよくあります。これは、日本社会において「話す内容の品位」に対する配慮が重視されるためです。
一方、英語圏(特にアメリカ)では、このような前置きをせずにストレートに話し始めることが多く、「品のない話だと自覚している」という自己防衛的な表現はあまり一般的ではありません。そのため、「下世話」という概念そのものが、日本特有の会話マナーや文化的背景を反映しており、英語にはそのままの形では存在しないとも言えます。
近いが異なる英語表現との比較
- “gossipy”:ゴシップ中心で、「下世話」よりも軽めの印象があります。
- “trashy”:侮蔑的で、話す人自体を低俗に見せるニュアンスが強いです。
- “sleazy”:性的にだらしないイメージを強く含むため、限定的な文脈に限られます。
「下世話」は、語り手が「そうとわかっていながら話す」自意識を含む点で、より複雑です。
文化的・社会的意味の翻訳
日本では、人前で語る内容に「品位」が求められる文化があり、その中で「下世話」は「人としてちょっと下品だが、興味を惹かれる話題」を示す便利なワードです。日常的なゴシップから芸能人のスキャンダル、冠婚葬祭の裏話まで幅広く使われ、「大人の会話の中のスパイス」として登場することもあります。
「下世話」を英語で説明する
A “gessewa” topic is something you probably shouldn’t bring up in polite conversation — like gossip about someone’s money, romantic life, or family drama. It’s kind of lowbrow, but people talk about it anyway.
「“下世話”な話題とは、本来なら上品な場では避けるべきもの――たとえばお金、恋愛、家庭の問題に関するゴシップのようなものです。ちょっと下品だけど、人はつい話したくなるんですよね。」
You might say, “This might sound a bit gossipy,” or “Not the classiest thing to bring up, but…” before starting this kind of talk.
「たとえば、“ちょっとゴシップっぽいけど…” “品のいい話じゃないけど…” のような前置きが、英語では近い表現になります。ただし、こうした前置きをあえて入れるのは英語ではやや珍しく、文化的に見れば日本特有の気遣いにあたります。」
JLPTの目安レベル
N1(新聞、エッセイ、コラムなどに時折登場します)
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