「よろしくお願いしますとは言わない」
日本語を英語に翻訳するのは単純な作業に見えますが、言葉の背後にある文化や習慣を無視すると、英語にしても実際には使われない表現になってしまうことが多いです。特に「よろしくお願いします」や「お世話になっています」、「お疲れ様」といった挨拶のような表現では、単なる翻訳ではその真意が伝わらないことがあります。
なぜ翻訳だけでは不十分なのか?
1. 文化の違いが背景にある
日本の表現には、人間関係を円滑にするための礼儀や配慮が込められています。たとえば「よろしくお願いします」は、協力を依頼する言葉ですが、英語にそのまま翻訳できる表現はありません。時々、"I look forward to working with you."(一緒に仕事ができるのを楽しみにしています)が候補に挙げられますが、この表現には楽しみという感情が含まれるため、相手への丁寧な依頼や敬意というニュアンスとは異なります。そのため、場面によっては不自然に感じられることもあります。
一方で、日本語の「よろしくお願いします」は感情よりも敬意や丁寧さが重視され、単なる挨拶として使われることも多いため、この微妙なニュアンスを英語にそのまま置き換えるのは難しいのです。
2. 使われる文脈の違い
日本語では「お疲れ様です」や「お世話になっています」といった表現を日常的な挨拶としてよく使いますが、英語圏にはこれに対応する定型句がほとんど存在しません。これらの表現が持つニュアンスを英語にそのまま翻訳すると、違和感が生じることが多いのです。
「お疲れ様」の難しさ
「お疲れ様」は、仕事の終わりや共同作業後に労いや感謝を表現する日本特有の表現です。この言葉には、相手の努力をねぎらい、関係を円滑にする効果が含まれています。英語にはこれに完全に一致する言葉はなく、文脈に応じて使う言葉が異なります。
- 「See you tomorrow!」(また明日ね):別れの挨拶として使いますが、労いのニュアンスは含まれません。
- 「Take care!」(気をつけてね):別れ際に使う軽い挨拶です。
- 「Good job!」(よくやったね):成果を褒める場面で使われますが、これも「お疲れ様」のような日常的な労いの言葉とは異なります。
どう伝えれば良いか?
1. 状況に応じた表現を提案する
英語では、「よろしくお願いします」や「お疲れ様」を表現するために、シーンごとに適した言葉を使います。
「よろしくお願いします」の例
- ビジネスメールでのお願い:"Thank you in advance."(事前に感謝します)
- 協力を促すとき:"Let’s work well together."(一緒に良い仕事をしましょう)
- カジュアルな依頼:"Could you help me with this?"(これを手伝ってもらえますか?)
これらのフレーズも、毎回使うと違和感があるため、適切な場面で使い分けることが求められます。
「お疲れ様」の例
- 別れの挨拶として:"See you tomorrow!"(また明日ね)
- 相手の成果を称えるとき:"Good job!"(よくやったね)
- 相手の体調を気づかうとき:"You must be tired. Get some rest."(疲れただろうから、ゆっくり休んで)
会話例で違いを示す
仕事の終わりの挨拶
日本語
A:「今日もお疲れ様でした。」
B:「こちらこそ、また明日も頑張りましょう。」
英語
A: "See you tomorrow!"(また明日ね)
B: "Take care!"(気をつけてね)
仕事の依頼の会話
日本語
A:「今後ともよろしくお願いします。」
B:「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。」
英語
A: "Let’s work well together."
B: "Sure, looking forward to it."
まとめ
「お疲れ様」も「よろしくお願いします」も、日本特有の礼儀や感謝を表す表現であり、これに完全に一致する英語表現は存在しません。「お疲れ様」は、仕事の終わりに相手の努力を労うための言葉ですが、英語圏では「Good job!」のような成果を褒める言葉や、「See you tomorrow!」のような別れの挨拶に置き換えられます。
「よろしくお願いします」も同様に、協力を促す言葉ですが、「I look forward to working with you.」には楽しみや期待の感情が込められているため、毎回の依頼に使うと不自然に感じられます。そのため、英語では「Thank you in advance.」や「Let’s work well together.」など、場面に応じた具体的なフレーズに置き換えることが自然です。
ただの翻訳で終わらせるのではなく、その言葉が使われる背景や目的を理解することが重要です。これにより、学習者は実際に使える英語を身につけ、異文化間のコミュニケーションを円滑に進めることができるでしょう。